カイン (Cain)
(創世後64頃〜930頃)
神によって作られた最初の人間アダムとエバの最初の子供。男女の交わりによって生まれた最初の人間であり、最初の殺人者。「私は得た」あるいは「草」を意味するとされる。 『創世記』4章によると、カインはアダムとエバの長子として生まれ、土を耕す者となった。弟アベルは羊を飼う者となり、時を経て二人は神への献げ物を持ってきたが、神はアベルの肥えた初子の献げ物に目を留められ、カインの土の実りの献げ物には目を留められなかった。それに怒って顔を伏せたカインは神に咎められる。 弟を恨んだカインはアベルを野原で襲って殺す。しかし、土の中から叫ぶアベルの血によってそれを知った神により、血を飲み込んだ土よりも呪われる者とされ、土は作物を生み出さず、地上をさまようさすらう者となると告げられた。同時に、あまりに重い罪を背負ったカインを殺す者は7倍の復讐を受けると定められ、それを示すしるしが付けられたとされる。 呪われたカインは神の前を去り、エデンの東にあるノド(さすらい)の地に移り住むと、町を建てて息子の名にちなんでエノクと名づけた。その後、彼の7代後の子孫たちは家畜を飼い天幕に住む者(ヤバル)、竪琴や笛を奏でる者(ユバル)、青銅や鉄の道具を作る者(トバル・カイン)など放浪の民の祖となったとされる。 カインについてはエノクに移り住んだことまでは語られるが、その後どうなったのかは『創世記』には記されていない。尚、カインとアベルを失ったアダムとエバの間には第三子セツ(代わり)が生まれ、これが人類の祖となる。 偽典『ヨベル書』によれば、カインが生まれたのは第2ヨベルの年第3年週(創世後64〜70年頃)。次にアベル、更に長女アワンが生まれたとされる。第3ヨベル(99〜147年頃)の初めにアベルを石で打ち殺し、放浪者とされた。その後、カインは妹であるアワンを妻に迎え、第4ヨベルの終わり(196年)に息子エノクをもうける。その後、第19ヨベル第7年週の6年(930年)にアダムが死ぬと、同じ年にカインは崩れた家の下敷きになり、その石で殺された。アベルを石で打ち殺したために、正しい裁きにより自らも石で打ち殺されたのだという。 人間とは異なるしるしと運命を与えられた呪われた存在。最初の近親殺人者であり、弟の血を大地に流した者。異端者や魔女といったアウトサイダーや、生前の罪の故に死後も神の大地に受け入れられなかった吸血鬼が、最初に襲うのは自分の血縁である。 与えられた“しるし”は額に付けられたマークのようなものと解釈されているが、目に見えないしるしと解釈することも可能かもしれない。 偽典『アダムとエバの生涯』によれば、産まれたカインは輝いており、立ち上がって走り出すと、草をとってエバに渡し、そこからカインと呼ばれたとされる。また、同書のギリシア語版である『モーセの黙示録』にある「ディアフォトス」という別名もあり、これは光に関係していると考えられている。 『アダムとエバの生涯』では、エバがカインがアベルの血を飲む夢を見たため、兄弟を引き離すためにそれぞれの家を建て、農夫と羊飼いに分けたが、その後アベルはカインに殺されてしまう。また、『モーセの黙示録』では、アベルの血を飲むカインに、アベルが血を残してくれるように懇願する。カインは耳を貸さずにそれを飲み干すが、血はカインの口から流れでてしまう。心配したアダムとエバが出かけてゆくと、アベルは既に殺されていた。また、ここで神は天使長ミカエルに対し、カインは怒りの子であるから奥義を知らせてはならないと告げている。 (1) カインの真の父親はエバの愛人となった蛇だとする伝説や、逆に『タルムード(ユダヤ教の口伝律法解釈集成)』にはリリスとアベルの子とする伝説もある。いずれも神の直系にあたる最初の人間が殺人者だということを説明づけるために後から考え出されたものだろう。しかし、カイン誕生の記述について、エバが発した「私は主によって男子を得た」という言葉は、男の子が産まれたという記述ではなく、主によって男を得た(創造した)と訳されるべき文で書かれているといわれ、カインの誕生の不自然さを窺わせる。また、6章に登場するネフィリム(巨人)がカインの子孫だとする説もあり、彼らも血をすする者であった点は注記すべきか。 (2) 一方にしか目を留めない神。さすらう者が町に定住し、耕作者の子孫が家畜を飼う者の祖になる。父母であるアダムとエバしかいない世界で、妻を娶り、出会った者に殺される事を怖れるなど矛盾の多い記述が続く。外典『ヨベル書』によれば、カインの妻は、妹であるアダムの長女アワン(不義)であるとされるが、カインの家系への悪意が窺える。 (3) カインの6代目後の子孫レメクは、妻に「傷の報いに男を殺し、打ち傷の報いに若者を殺す。カインのための復讐が七倍なら、レメクのためには七十七倍」という復讐の歌を歌っている。 また、鍛冶師トバル・カインが天から落ちた金属の塊を鍛えた槍がイエス・キリストの処刑の際に使われたロンギヌスの槍だとする伝説もある。 (4) カインが赤毛だったとする伝説、またカインの死を描いた伝説があったはずだが…。 |